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博多天神界隈を本と文房具(万年筆とインク)と電子ガジェットを探して徘徊しています。

没食子酸鉄インクとタンニン酸鉄インクに発生する澱の違いと安定化のための方策。

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調製した没食子酸鉄インクの原液を、しばらく保存しておいたものをよく観察すると、わずかに澱ができているのが分かる。水面に油が浮いているようにも見えるのだが、水面 (気液界面) で鉄イオンが酸化されて生成した没食子酸鉄が水面上に浮いて薄膜状になっているのだろうと考えている。没食子酸以外にタンニン酸も入っているタンニン酸鉄インクだと、この澱が大きく成長しやすく、沈降するため、文字どおり澱となって瓶の底にたまることになる。
これらの仮説が正しいとすると、没食子酸鉄インクをより安定化するには、鉄を酸化し難くし、没食子酸鉄を生成させないための還元剤の添加が有効ではないかと考えられるが、適当な還元剤の探索はなかなか難しそうだ。以前も引用したことがあるが、使いきったモンブランBBのビン底に沈殿物がべっとり付いていたという話や、古典インキだったころのパイロットBBを漉しながら使っていたという話をみると、大手メーカーでも古典ブルーブラックの鉄の酸化を完全抑制することには成功していないようである。この話は逆に、大手メーカーでもそれくらいの安定性のものを商品化して流通させており、沈殿を落としながら、沈殿を漉しながらでも、使って問題無いということなので、心強い話ではあります。
また別の対策として、没食子酸鉄が作られても、没食子酸鉄同士を凝集させず澱にまで成長させないという手も考えられます。今のところ、自作インクでは、そのための特別な対策をしているということは無いのですが、原液に色素を加えた言わばインクの完成形であれば、色素が多少なりとも没食子酸鉄の凝集を防いでくれるのではないかと考えています。
完璧なる澱発生対策を求めて、ずっと気になっているのが、万年筆評価の部屋で紹介されていたパイロットの特許です。特許第88847号という昭和5年の特許なので、さすがに見られないかと思っていたのですが、特許電子図書館にはちゃんとスキャンして置いてありました。3ページしかない簡単なもので、実施例が一例だけ載っていますが、この特許の要の安定化剤として、、、あ〜、亜砒酸 (三酸化ヒ素, As2O3) を使っていますね。こりゃ今となっては毒性が強くて、インクの安定化剤として使うのは無理だろうなあ。
追記:怖い、怖い(;;)というやはりモンブランBBの瓶底に溜まった澱の話を見つけました。怖いと思うより先に、モンブランだってこれなんだから全然大丈夫だ、と思ってしまうのは変でしょうか。万年筆は微妙なところで、がらっと書き味が変わるような繊細なところもあるけれど、インクに関しては、どんなインクも飲みこんでしまうような、図太いところがありますね。

1930年(昭和5年)
PILOT 特殊な沈殿防止剤を配合した世界的に優れた「ブルーブラックインキ」の発明を成し遂げる。(特許第88847号)
日・英・米・仏・蘭の特許取得。
万年筆の歴史