古典ブルーブラックインクの筆記線は、空気中の酸素で徐々に酸化されて黒味が増してきますが、「結局この色は鉄の錆の色なんでしょうか」と聞かれて、ちょっと悩んでしまいました。趣味の文具箱 Vol.23に描いた化学式のように、水中では没食子酸とキレートを作って黒くなっているのですが、水の無い紙の上ではどうなのか。そこでこんな実験をしてみました。
↑まず紙にガラスペンで、塩化鉄(II) (塩化第一鉄, FeCl2)と塩化鉄(III) (塩化第二鉄, FeCl3)の水溶液を使って字を書き、約1ヶ月そのまま放置してみました。
↑二枚目の画像は、一枚目の画像の文字を書いた塩化鉄水溶液を保存しておき、先程書いたものです。上側の塩化第二鉄の筆記線は黄土色で、下側の塩化第一鉄の筆記線は黄色が薄く透明に近い色ですが、一枚目の画像では、塩化第一鉄の筆記線も酸化されてどちらも同じ黄土色に見えます。しかし黒ではありません。
塩化鉄の筆記線の一部に没食子酸の水溶液を塗ってみます。左端に写っているのが没食子酸の水溶液で、これは透明ですが、没食子酸水溶液を塗ると筆記線が見る見るうちに黒変していきます。
やはり古典ブルーブラックの黒い色には没食子酸(あるいはタンニン酸)が関係しているようです。今回の実験のような方法は大昔も使われていて、インクも紙も無かったころ、鉄釘のようなもので皮に字を書き、植物から取ったタンニンの液に漬けて文字を浮き出させるということが行われていたそうです。
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