趣味と物欲

博多天神界隈を本と文房具(万年筆とインク)と電子ガジェットを探して徘徊しています。

ポメラで萬年筆と打ってみる その3。

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ポメラで万年筆について書く、第三弾、今回は丸善の宣伝的文章、当時の万年筆事情が良く分かるものです。
ポメラ萬年筆と打ってみるシリーズ
1. ポメラ萬年筆と打ってみる。 「萬年筆の過去、現在及び未来 内田魯庵http://d.hatena.ne.jp/pgary/20081118/p1
2. ポメラ萬年筆と打ってみる その2。 「萬年筆の経験 馬場孤蝶http://d.hatena.ne.jp/pgary/20081122/p1

「万年筆と丸善」より抜粋
丸善 文房部 善太郎

丸善が万年筆を初めて取り寄せましたのは明治十三四年頃、今から三十年以前でござります。それ以前横浜の商館で売っておりましたが、日本のお方にお薦めするため取り寄せましたのは丸善でござります。万年筆の名の謂われに就ては色々説もありますが、その頃通称萬吉で通っていた支配人が主として肩を入れて売払めに尽力していましたので、誰云うとなく萬吉筆、萬さん筆と称していたのが、いつとなく萬年筆と変形して動かす可からざる名となったと申します。シカシ之は請け合いません。真の命名者が誰であったか解りません。
萬年筆というのは萬年糊、萬年酢、萬年新造等々同様、余り佳い名ではござりませぬ。第一、如何にも日本臭くって最もハイカラ向きな物の名としては不釣り合いでござります。が、此不釣り合いな到って拙な名称が最早動かす可からざる定名となって日本の字書にさえ載っております。夫故今でも和臭のある万年筆の名を嫌って、原名を直訳して泉筆と云っているお方があるが、ドチラかというと尚だ泉筆という方が似つかわしいのに関わらず、泉筆というと何となしに万年筆よりは一時代遅れた旧式の物であるかの如き感が致します。
丸善と万年筆との関係に就いてはこういう歴史がござります。でござりますから此の三十年間、お客様のご経験も承ります、店員も研究いたしました。英米独各地から見本を取り寄せて試験した数も四十種や五十種ではござりませぬ。こちらから注文をつけて改良させたり、あるいは特に製造させたりした事も度々ござります。著名な外国の新聞雑誌の広告欄に載ってる各種の万年筆で、丸善の試験の関門を経ない物は殆ど無いと申しても決して過言でござりませぬ。即ち今日販売しておりますのは多年数十種類を比較研究して択りに択った結果でござります。

一番初め即ち三十年前に売り出した最初の方は「カウス」の針金式でござります。「ウォーターマン」は二三年遅れて後、「ペリカン」は更に二三年経ってからで、其の後「スウイフト」とか「スワン」とか「レメックス」とか「インデペンデント」とか代わる代わる種々の品を取り寄せましたが、今日では「オリオン」、「オノト」、「ゼニス」、「カウス」、「ウォーターマン」、「ペリカン」の六種類を揃えて置きます。此の六種類が各々二三種乃至数十種の形式に別れてます故、大別して六種類、小別して数十種類あるわけでござります。
一と口に万年筆と申しましても此の如く多種類でござります。その他丸善以外に販売されてる外国品、及び内国製の模造品又は新案意匠まで加えましたなら、日本の市場に現れてる品だけでも何百種類にもなりましょう。甚だしいのは普通のペン軸に些かの装置を施して普通のアルミのペンを挿し込みて、外観だけを如何にも万年筆らしく見せた品さえござります。こういう似て非なる品が東京にすらチラホラ見えますから、地方へ行ったら定めし沢山ある事でござりましょう。
之ほどに広がったというのがツマリ万年筆の効能が遍く認められて来た何よりの証拠で、今日では縦令似て非なる万年筆に一度お懲りになったお方でも万年筆をお疑りなさる事は先ず少うござります。そこで万年筆は如何にも重宝らしいが、ドンナ万年筆が最も宜かろうというのが今日の問題で、三十年来の経験を持ってる丸善は毎日お客様からご質問を受けます。「インキの覆れない万年筆は無いか?」「インキのボタリと落ちない万年筆はないか?」「字の太く書ける万年筆は無いか?」「太くも細くも自由に字の書ける万年筆は無いか?」「毎日毎日ゴシゴシ使って少なくとも四年や五年は大丈夫な万年筆は無いか?」
こういう御質問は毎日沢山ござりますが、今日丸善で揃えております品は三十年来経験に経験を重ね択りに択った結果で、真実、万年筆という名に背かぬ万年筆でござりますと申し上げて置きます。