趣味と物欲

博多天神界隈を本と文房具(万年筆とインク)と電子ガジェットを探して徘徊しています。

鉄ペンと古典ブルーブラックの話は、少なくともパイロットに関しては戦前に解決しているではないですか。

当ブログではアフィリエイト広告を利用しています

 あとで読む

タンニン酸あるいは没食子酸および鉄(III)イオンを含む万年筆用インク」である古典ブルーブラックインクは、安定化のために硫酸や塩酸を添加して、液性を酸性に調整してあります。そのために、「古典ブルーブラックは鉄ペンを腐食させるので使ってはいけない」というのは定説とされています。
以前からこの定説には疑問を持っていました。プラチナのプレピーのブルーブラックには古典ブルーブラックのカートリッジが付属しています。市販の古典ブルーブラックインクや自作した古典ブルーブラックインクをサファリやTWSBIなどの鉄ペンで使っても、ちっとも錆びてくれません。不具合を起こそうと古典ブルーブラックを入れっぱなしで放置しても、なかなか問題が起きてくれないのです。
そんなおり、萬年筆研究会【WAGNER】九州地区大会 in 博多で、師匠から「万年筆屋物語」という本を見せてもらい、その中にパイロットの白ペンの耐酸性についての記述を見つけました。また、「萬年筆と科學」四巻のP45-46にも同様の記述を見つけました。
要点だけ示すと、

万年筆の鉄ペンや白ペンというのは、金の代わりにステンレスを使用したペンで、ステンレスは硫酸には比較的強いが、塩酸には弱い。古典ブルーブラック中の酸の量は、硫酸でも塩酸でも通常0.15%〜0.20%程度である。ドイツ クルップ社のV4Aスープラというステンレスは1%の塩酸には耐えるので、一時期パイロットでも使用していたが、ペン先でインクが煮詰まると塩酸の濃度が1%を超え、腐食してしまう。そこでパイロットでは研究を重ね、5%の塩酸に耐える第十五合金、更に9%の塩酸に耐える第二十七合金を完成し、これで白ペンを製造した。

これが1939年 (昭和14年) に書かれた文章です。
また、「萬年筆と科學」には、

二%塩酸に耐えるものならどんなインキ、例えば塩酸性インキに対しても不安は先ずありません。五%に耐えるものなら絶対的に安全です。かような地金でペンを作るなら、硫酸性インキであろうが、塩酸性インキであろうが、自由にお使い下さいということが大っぴらでいえるのです。

とも書かれています。少なくともパイロットの白ペンに関しては、既に戦前に、古典ブルーブラックインクを使ってよいことになっていたようです
また、これらの情報は、以前調べた「市販の古典ブルーブラックインクは硫酸性か塩酸性か」の結果を受けた考察を、裏づけるものになっています。個人的にはペンよりも紙への影響を重視して、塩酸性インキにこだわっています。
全ての鉄ペンがパイロットの白ペン並の耐酸性を持っていないかもしれませんが、古典ブルーブラックの鉄ペンでの使用について、かなり安心できる情報ではないでしょうか。

<V4A>:ドイツ軍の装甲板溶接用オーステナイト系ステンレス材で、クルップ社が第2次大戦前に開発した。18%のクロム、8%のニッケル、2%のモリブデンを含む。参考:月刊丸4,’07
軍事大事典V