如何にも本当っぽくて、誰かに話したくなってしまう蘊蓄は、間違いだと分かっていても、再生産され、目にすることが多いような気がします。
このブログで前々から何度も書いているけれど、やっぱり今でも信じられてしまっているのが、古典インク(没食子インク)と金ペンの話です。
古典インク (古典ブルーブラック) は金ペンでないと使えない。
ややこしいのは、昔は全くの間違いでもなかったこと、ただし「金ペンでないと使えない」ではなくて「鉄ペンを使うと腐食することがある」くらいの話です。
しかも、ここで言う鉄ペンとは、現在のステンレスペン先の万年筆ではなくて、漫画家が使うような、つけペンのペン先のことで、これは鉄に鍍金したものですから、古典インクを使って放っておけば錆びます。
ただ古典インクに付けたら、すぐに溶けたり錆びたりするわけではないので、つけペンの鉄ペンと古典インクの組合せは長く使われていました。
パイロット発行の「インキと科學」には、つけペンのペン軸から鉄ペン先がインクに落ちた時を想定した、鐡ペン浸蝕試験について詳細に記されており、それだけつけペンの鉄ペンが使われていたことが分かります。
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また、現在の万年筆で鉄ペンというと、通常ステンレスペン先のことになりますが、これに関して戦前には既に、古典インクに耐えるものが開発され、使用されています*1。
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NASAは、10年の歳月と120億ドルの開発費をかけて宇宙で使えるボールペンを開発した、一方、ソ連は鉛筆を使った。
この話も如何にもありそうで、教訓じみた話でもありますので、よく聞きますが、加圧式ボールペンは、フィッシャースペースペンのフィッシャーさんが開発して、NASAに売り込んだもので、開発費も時間もそんなにはかかっていないし、黒鉛の粉が問題になるので、ソ連が使った鉛筆も、鉛筆というよりダーマトグラフのようなもの(Grease pencil)だったそうです。
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しかも、普通のボールペンが宇宙では使えないという話は、ボールペンを上向きにして使うと書けなくなることから、それっぽく感じられますが、実は無重力でも、普通のボールペンで字が書けるのだそうです。
ボールと逆向きに重力がかかっているのと、無重力との違いなんでしょうね。