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博多天神界隈を本と文房具(万年筆とインク)と電子ガジェットを探して徘徊しています。

アスコルビン酸による古典ブルーブラックの洗浄には、pHよりも還元性の寄与が大きい。

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古典ブルーブラックインクの万年筆へのこびりつきを化学的に落とす話FPNにも投稿してみました (Cleaning Method For Iron Gall Ink Using Ascorbic Acid - Inky Thoughts - The Fountain Pen Network)。日本だと、アスコルビン酸 (ビタミンC) が良いというと、すぐに、クエン酸はどうだ、重曹はどうだ、というレスポンスが返ってくるのに対し、アメリカだと、Vinegar (acetic acid、酢酸) はどうだ、と返ってきます。昔から言われている掃除の知恵的なものが、日本ではクエン酸重曹なのに対し、アメリカだとVinegarなのだろうなと予想しています。
そんなVinegar、Vinegar言われている中で、成程と感心したのが、MarkTrain氏によるこちらの書き込みでした。

One other reason that this might work well is that ascorbic acid is a weak acid, slightly stronger than acetic acid and acetic acid (aka vinegar) is recommended for cleaning out IG inks from pens. One way to distinguish the reducing vs the acid effect would be to compare sodium ascorbate vs ascorbic acid.

還元性なのか酸性なのかは、アスコルビン酸アスコルビン酸ナトリウムを比べれば良いんじゃない?ということです。アスコルビン酸は1%水溶液のpHが約3、10%だと約2くらいですが、とアスコルビン酸ナトリウムの水溶液はほぼ中性になります。

以前行った、アスコルビン酸の洗浄力をクエン酸やシュウ酸と比較する実験と同じように、没食子酸と塩化第二鉄を混ぜて作った黒色沈殿に、1. 水(water)、2. アスコルビン酸(AA)、3. アスコルビン酸ナトリウム (AANa)、4. 塩酸 (HCl)、5. アスコルビン酸ナトリウム+塩酸(+AANa +HCl)を添加します。
画像下にあるのは、pH試験紙でpHをチェックした結果で、赤に近い色だとpHが低く、緑に近い色は中性(pHが7に近い)であることを示しています。アスコルビン酸ナトリウムのみ加えた3番のみ中性で、1,2,4,5は全て酸性、特に4番の塩酸を加えたものは真っ赤になっていて、強酸性であることが分かります。
2番のアスコルビン酸を加えたものは、黒色沈殿が溶解し、液が透明になっていますが、3番のアスコルビン酸ナトリウムは沈殿が溶けず黒いままです。また、4番目の塩酸を加えて酸性にしたものも黒いままですが、5番のアスコルビン酸ナトリウムと塩酸を混ぜたものは、アスコルビン酸を加えたものと同様にきれいに溶けています。
アスコルビン酸水溶液が酸性であることよりも、酸性条件下で、アスコルビン酸の還元力が効いているのだと考えられました。
そういえば、アスコルビン酸による洗浄法を公開した直後くらいに、C1000タケダで試された方がいて、効果が無いと言われていましたが、この結果から考えると、pHが高くて効かなかったのだろうと思います。

ちなみに、一晩(12時間)置くと、4番の塩酸を加えただけでもかなり溶けてきます。これは酸性にすることで、没食子酸のフェノール性水酸基と三価の鉄のキレートが生成し辛くなったからだと思います。しかしこの時の溶液のpHは、1以下の強酸性で、溶けるまで時間もかかりますから、ペン先への悪影響が予想されます。ちなみに、6番に、Vinegarの主成分の酢酸も加えてみましたが、やはり洗浄効果は低いものでした。
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結論として、やっぱりアスコルビン酸(ビタミンC)が良いんじゃないかなという結論になりました。