趣味の文具箱Vol.47は、また素晴しいインク特集号だったのですが、一点だけ気になった点として、
p118の古典インクの説明が「染料インクに鉄分と酸性分を加えている」とかなりざっくりしていること。タンニン酸も没食子酸も名前に酸と付いてるからと、文字数の関係でギュギュと文章を詰めたのでしょうが、さすがにはしょり過ぎです。
pgary.hatenablog.com
ということをブログに書きました。
古典インク (没食子インク) を古典インクたらしめている重要な成分は、鉄とタンニン酸や没食子酸で、タンニン酸はフェノール性水酸基、没食子酸は加えてカルボキシ基があるくらいで、酸性はかなり弱く、それを酸性分とまとめられると違和感があります。古典インクを酸性にするための酸は、硫酸や塩酸など別に加えられますが、これは安定化のために加えるもので、極端な話無くても古典インクは成り立ちます。
パイロットの「インキと科學」p201には、
1663年に、此のボイル氏*1は、五倍子*2液と鐡鹽*3との混合液中に硫酸を添加して酸性にすると、暗黒色が見る見る消えて清澄な液になるといふ作用を発見しました。
とあり、以降、古典インクの安定化のために、硫酸や塩酸を加え、液を酸性にするようになりますが、必須の成分というわけではありません。
何故改めてこんなことを長々と書いたかと言いますと、昨日公開されたオエステ会のブログ記事中で古典インクの説明を、
染料インクにに特殊な製法で鉄分と酸を加えたインク。紙に書くと次第にインクが酸化して文字が黒に近づいていきます。同時に耐光性や、耐水性も増していくので、長期保存に最適。
細かいところにこだわり過ぎかとも思いますが、ここは正確に理解しておかないと、古典インクの本質を間違ってしまうことになりますので、あえて苦言を呈させていただきました。
ちなみに以前からこのブログでは古典インクのことを、「タンニン酸あるいは没食子酸および鉄イオンを含む万年筆用インク」と定義しています。
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