万年筆用の古典ブルーブラックインク (iron gall ink) によるペン先の詰まりや汚れを取るのに、アスコルビン酸 (ビタミンC) が有効であるという記事 (古典ブルーブラックインクの万年筆へのこびりつきを化学的に落とす。 - 趣味と物欲) を書いてから、多くの方に検証いただきましたが (2010-07-05 - 趣味と物欲)、お試しいただいた方からは、「驚きの効果!」という評価をいただいています。
この洗浄法は、あくまで古典ブルーブラックインクの洗浄法です。酸化して水に溶けなくなった鉄-タンニン類キレート化合物を、アスコルビン酸で還元することで洗浄するので、染料インクや顔料インクには意味がありません。
また、クエン酸やシュウ酸*1ではどうか、という質問も時々されます。クエン酸もシュウ酸もアスコルビン酸と同様に、還元能とキレート能がありますので、効果があることは予測できますが、どちらが良いのか実際に試してみました。
タンニン酸と塩化鉄(III) (塩化第二鉄) を混ぜて、酸化した状態の鉄-タンニン酸キレート化合物を調製し、左から、精製水、アスコルビン酸水溶液、クエン酸水溶液、シュウ酸水溶液を加えたものです。モル比で鉄とアスコルビン酸などが、1:2になるように加えています (キレートが鉄1に対しタンニン酸2で形成すると考えて)。
キレート化合物を溶解する効果の強さは、シュウ酸 > アスコルビン酸 > クエン酸の順で、シュウ酸が最も強力ですが、シュウ酸は、医薬用外劇物で、アスコルビン酸やクエン酸より入手しにくいこと、シュウ酸と鉄のキレート化合物の水溶性が低いこと (シュウ酸鉄(II)二水和物は0.008g/100mL) から、やはりアスコルビン酸が良いのではないかと思います。
2012/7/18 追加実験
更に還元剤 *2 を添加量を1:3、1:4まで増やしてみました。アスコルビン酸は、沈殿物が更に溶け、液も澄んで来ますが、クエン酸は、黒い沈殿物がなかなか溶解せず溶け残ります。シュウ酸では、逆に液が白濁してきており、溶解性の低いシュウ酸鉄が生成していると考えられます。添加量を増やしてみる追加実験でも、やはりアスコルビン酸が良いという結果になりました。
鉄:還元剤 (キレート剤) のモル比 1:3
鉄:還元剤 (キレート剤) のモル比 1:4
左から順に、水、アスコルビン酸水溶液、クエン酸水溶液、シュウ酸水溶液、を加えています。