趣味と物欲

博多天神界隈を本と文房具(万年筆とインク)と電子ガジェットを探して徘徊しています。

万年筆インクの宿題:アウロラ ブルーブラックは顔料インクって本当?

アウロラ ブルーブラックはKINGDOM NOTEのページによると顔料インクとされています。

アウロラ従来のブラック、ブルーのインクとは異なり、耐光性がある顔料インクの為、公文書用インクとしてお使いいただけます。
https://www.kingdomnote.com/item/4560115859031

また、storia di un minuto さんでは、「KINGDOM NOTEからメーカーに確認したところ顔料インクと返答があった」という話が紹介されていました。
更に、storia di un minuto さんが直接アウロラに問合せられたら、日本代理店の町山経由で、

アウロラのインクにつきましては、成分(顔料・染料を含む)及びその含有量につきましては、一切公表出来ませんので、お知らせすることが出来ません。

と顔料か染料かの公表もできないと回答があったそうです。
http://storiadiunminuto.net/stationery/ink/about_aurora_blueblackstoriadiunminuto.net

しかし、良く水に流れることから、本当に顔料なのか疑問視されている方は多いです。
検証するために、アウロラ ブルーブラックをKINGDOM NOTEから購入しました。

アウロラ ブルーブラックで書いたものを水に漬けてみると、滲んでいますが、、、

取り出してみると結構筆跡は残っています。青の色素が流れて、黒い筆跡が残るという古典インクっぽい消え方ではありますが、前回の二価鉄試験紙を使った試験で、古典インクでは無いことは確認しています。
万年筆インクの宿題:バーガンディレッドはモンブランの言う通り古典インクかもしれない→古典インクでは無いことを確認しました。 - 趣味と物欲

また、ガンジーインキ消を使うと消えましたので、顔料インクでもなさそうです。
pgary.hatenablog.com


更に、モンブランのパーマネントインクが顔料かどうか調べる時に使った、チンダル現象を用いる方法を試してみます。
pgary.hatenablog.com
同じ様な色味の顔料インクであるセーラー青墨や

セーラー ストーリア ナイト (Storia Night) を極微量、精製水に分散させてレーザー光を当てると、チンダル現象でレーザーの通り道が見えますが、、、

アウロラ ブルーブラックでは見えませんでした。

これらの結果からアウロラのブルーブラックは、耐水性のある黒い染料が含まれている染料インクだと考えられます。

万年筆インクの宿題:KWZ IG Blue Blackってどうでしょう?

KWZ IG inkってどんなインクか興味はあったのですが、ようやく購入しました。
趣味の文具箱のVol. 41 p30~33に紹介されていますが、ポーランド ワルシャワ工科大学のKonrad Zurawski博士が開発した古典インクです。ポーランドから輸送しても漏れないようにか、ラップの様なものでぐるぐる巻にされています。
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今回購入したのは、KWZ Inkの中でも一番高濃度の没食子鉄成分を含むKWZ IG Blue Blackのアーカイブインクです。

先日の記事中の二価鉄試験紙による結果を改めて見てみると、プラチナ ブルーブラックと良く似ている印象を受けました。
万年筆インクの宿題:バーガンディレッドはモンブランの言う通り古典インクかもしれない。 - 趣味と物欲
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実際に筆記してみると、KWZ IG Blue Blackの方がプラチナ ブルーブラックより黒く定着するので、没食子鉄成分の量がプラチナBBより多く含まれているのだろうと思います。
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普通のペーパークロマトグラフィもやってみました。前回と同じく移動相は70%エタノールです。左がプラチナBB、右がKWZ IG BBですが、ペーパークロマトグラフでもやはり、プラチナBBと非常に良く似ています。
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それからKWZ inkのレビューでは良く言及されていることですが、結構強く甘い感じの匂いが付けられています。何か記憶をくすぐる匂いだと考えていたのですが、革の手入れに使うM.MOWBRAY デリケートクリームが、こんな匂いだった気がします。

趣味の文具箱 41 (エイムック 3631)

趣味の文具箱 41 (エイムック 3631)

万年筆インクの宿題:バーガンディレッドはモンブランの言う通り古典インクかもしれない → 古典インクでは無いことを確認しました。

【追記】バーガンディレッドが古典インクではないことを確認しました。
pgary.hatenablog.com

万年筆のインクについて、色々と謎のまま放置していた宿題があるのですが、それを検討するべく新しくインクを購入しました。購入したのは下の画像の右側の3本、KWZ Archive Blue Black、MONTBLANC Burgundy Red、Aurora Blue Blackです。

まずは、モンブランのバーガンディレッドの謎から、去年の夏頃、バーガンディレッドには鉄ガリウムが含まれ、StarWalker Midnight Black万年筆のルテニウムコーティングを変色させる恐れがあるとアナウンスされたのです。

その時はまさかと思い、下記の様な記事を書きました。バーガンディレッドは、元々ボルドーと言われていた染料インク、モンブランボルドーは趣味の文具箱 Vol.11ではpH5.34と書かれており、古典インク (iron-gall ink) のpHではありません。
pgary.hatenablog.com

いつもの様に二価鉄試験紙を用いれば、すぐに判別は付くだろうと高を括っていたのですが、1/10に希釈して試験しても赤の色素の色が強くて、はっきり判定できません。
下の画像は、それぞれ1/10に希釈したインクを上段は二価鉄試験紙、下段は普通の濾紙で展開したものです。インクは左からプラチナ ブルーブラック (PL)、ペリカン ブルーブラック (PE)、ダイアミン レジストラーズインク (DIA)、KWZ IG アーカイブ ブルーブラック (KWZ)、モンブラン バーガンディレッド (M BR)、アウロラ ブルーブラック (Au)です。
二価鉄試験紙は、二価鉄が存在すると赤く変色しますので、上段で古典インクのPL、PE、DIA、KWZは展開した溶媒先端付近が赤くなり、古典インクではないAuは赤くなっていません。しかし、M BRは色素の赤がかぶるため判定できないのです。

それではと、普通のペーパークロマトグラフィでも展開してみました。右側がモンブラン バーガンディレッド、左はプラチナ ブルーブラックです。固定相は濾紙、移動相は70% エタノールを使用しました。
モンブラン バーガンディレッドのペーパークロマトグラフは、趣味の文具箱 Vol. 44 p58にも掲載されていますが、そちらは移動相が水なので少し形が異なっています。
プラチナ ブルーブラックでは、タンニン酸鉄 (あるいは没食子酸鉄) の黒色成分が原点に残り、青の色素が上に移動しています。モンブラン バーガンディレッドも原点が黒く、赤の色素が上に移動しており、良く似た感じになっていますが、紙との親和性が高い黒の色素や黒の顔料である可能性もあり、古典と確定はできません。

モンブラン バーガンディレッドと古典インクのプラチナ カシスブラックでロディアに文字を書き、更にその紙を流水で十分に洗浄してみました。

モンブラン バーガンディレッドの洗浄されずに残った色はタンニン酸鉄 (あるいは没食子酸鉄) の色に良く似ているように感じられます。

色々と試験してみましたが、モンブラン バーガンディレッドが古典インクではないことを示すようなデータは無く、古典インクだと考えた方が納得できるデータばかりが得られました。更に調べて確証を得るには、鉄やタンニン酸 (没食子酸) を分析し、成分を明らかにする必要がありそうですが、そこまでしなくても、モンブランがiron-gall inkだと言っているのだから、もう本当に古典インクなのかなと思いました。
ただ後は、古典のブルーブラックを古典のミッドナイトブルー、更に染料のミッドナイトブルーへと変更したモンブランが、染料のボルドーを古典のバーガンディレッドに変更するというのが、戦略的に納得がいかないだけです。
案外、古典ブルーブラックを染料に変更させられたインク開発者の逆襲だったりするのかもしれません。

【追記】バーガンディレッドが古典インクではないことを確認しました。
pgary.hatenablog.com