事の発端は、セーラーショップのスタッフブログの記事
そこで注目されたのが、古代より戦の時などの“暗号”に使われてきたインクでした。
固まりにくく戦場で用いられることが多かったそのインク、書いた時は無色透明、時間経過とともに酸化して黒く現れ、消えにくくなるというまさに秘密のインク!(゜O゜)
色素が入っていない古典ブルーブラックの原液で文字を書けば、無色透明なので機密文書を運んでいる間は読めず、届く頃に文字が浮かびあがるという内容です。以前から古典ブルーブラックの原液で文字を書いてみて、筆記線の黒化がかなり速いことを知っていましたので、この記事を読んだ時本当に暗号として成り立つのか疑問に思いました。原液の色の変化については、こちらで動画を見ることができます (手作り没食子酸鉄インク(古典ブルーブラック)原液の色の変化を見る - 趣味と物欲)。
その時のTwitterでのやり取りで、SAYさんから酸性紙の影響では?というsuggestionをいただきました。
その時は「書いた後は影響はあると思います」という感じで軽く考えていたのですが、もしも黒化に数日、最短でも数時間かかるくらい遅くなったら暗号にも使えるなあと悩み始めました。
そこで中性紙と酸性紙で比較してみようと思ったのですが、あまり酸性紙と明記している紙も無いので、どれが酸性紙なのかよく分かりません。色々な紙を購入してpHを測定しようかと思ったのですが、それは大変なので酸性紙を自作することにしました。酸性紙は硫酸アルミニウムで処理してあるから酸性になっているので、中性紙であることが明らかなツバメフールス紙 (表紙裏に「一万年以上永久保存が利く中性紙フールスです。」とうたってあります。) を1%の硫酸アルミニウム水溶液に漬け、乾燥させました。
下記の画像の上段が未処理のツバメフールス紙、下段は硫酸アルミニウム処理したツバメフールス紙です。端にBTB (ブロモチモールブルー) 溶液を付けると、硫酸アルミニウム処理した方は黄色になるので酸性紙になっていることが分かります。
没食子酸と塩化第一鉄と塩酸から調製した古典ブルーブラックインク原液で、それぞれの紙に書いてみます。下記の動画で、左が硫酸アルミニウム処理したツバメフールス紙、右が未処理のツバメフールス紙です。速度を調整していない6分くらいある動画なので、適当に飛ばして見てください。
中性紙と酸性紙による古典ブルーブラックインク原液の変色速度の違い
中性紙と酸性紙では、黒化速度にずいぶん差があることが分かりました。酸性紙が良く使われていた時代は、古典ブルーブラックの色の変化も現在よりのんびりと風情があったかもしれません。
ただし酸性紙では遅くなったと言っても5分もすれば読める程度に変色してきますので、暗号用途には使えないようです。
パイロットの「インキと科學」には秘密インキに関しても紹介されており、五倍子、タンニン酸、没食子酸の水溶液で文字を書き、読むときは硫酸第一鉄や塩化第二鉄の溶液を塗布して発色させる方法が紹介されています。上記、セーラーショップのスタッフブログの暗号の話はこの話のことを言われているのではないかと思います。
上記動画の後、1時間ぐらいで遜色無いくらいの色の変化をしています。
それから、
色づけとインク長期保存のための“酸性”の性質を持つ「藍(インディゴ)」を加えることで、ついに万年筆用のインクができたのでした!
とも書かれているのですが、インディゴでは古典ブルーブラックを安定化できる程、酸性にはなりませんので、やはり別途なんらかの酸を加えることが必要です。