最近また、ペリカンのブルーブラックインクが古典ブルーブラック(タンニン酸あるいは没食子酸および鉄イオンを含む万年筆用インク)から染料インクに変わるという話を耳にします。今回の発信元は白星さんがブログに書かれた記事で、新宿と銀座のお店からの情報とのことです*1。
ただ、2015年の7月頃に同様の情報をいただいた時は、下記のように両店とも既に染料系になっているとの話だったのに、実際に確認してみると古典のままだったということがありました*2*3*4。
先日、銀座の◯◯屋、丸の内の◯善で確認したところ、両店ともに「ペリカンブルーブラックは既に染料系と成っており、いわゆる古典ブルーブラックではないようだ」とのコメントをいただきました。ペリカンジャパン社のコメントは「インク成分については公開されていない」との一点張りのようで、埒があきません。
http://pgary.hatenablog.com/entry/20500101/p1
そこで、前回の時もご協力いただいたtisotopeさんに、東京で売られている最新ロットについて、二価鉄試験紙を用いた試験を行っていただきました。それぞれ、三越の万年筆祭とK.ITOYAで購入されたもので、どちらも15Iというロットです。
二価鉄試験紙が赤く変色していますので、どちらのインクも鉄イオンを多く含むインク、つまり古典ブルーブラックであると考えられます。
また、これらのインクを購入された時に、ペリカン日本の方は、「ドイツ側は以前は顔料と言っていたが、最近染料になったと言っている」、K.ITOYAの方は、「顔料から染料には数年前になったはず」と言われていたそうですので、両者とも既に変わっているという見解のように思われます。
このような話が定期的に出てくる背景には、3つの要因が考えられます。
第1に、ドイツ側と日本側でインクの用語を定義せずに話をしているため、齟齬が生じている可能性。
ドイツ側は以前は古典ブルーブラックのことを顔料と訳していたのを、染料と訳すようになったのではないでしょうか。古典ブルーブラックは顔料と言うよりは特殊な染料インクに分類されます*5。プラチナ社がブルーブラックインクのパッケージを変更した時は、後で英語表記の間違いに気づきpigmentからdyestuffに表記を変えたこともあります*6。
第3に、米国ではTSCA(有害物質規制法)絡みでペリカンBBが販売できなくなっていること*9。
特に第3は、ペリカンBBが染料に変更されるんじゃないかと想像を強くかきたてられる要因になっていると思います。
ただTSCAで問題になっている成分は、TSCA inventoryという既存品目のリストに載っていないので使えないのであり、その成分が有害だから使えないわけではありません*10。またこの成分は古典ブルーブラックに必須の成分ではなく、ペリカンBBに入っているspecial ingredientsの何かが問題になっていると推測されます*11。
時代の趨勢で、今後ペリカンのブルーブラックも古典から染料に変わってしまうのかもしれません。でも今の段階で、「ペリカンのブルーブラックが染料に変わるらしい」と言われても、占い師に、「あなたはいつか死ぬでしょう」と言われたようで、何となくモニョモニョしてしまいます*12。
*1:Pelikan BB とうとう、おまえもか!? : 萬年筆の迷走
*2:天神丸善のペリカンBBインクのボトルとカートリッジはまだ古典でしたけど商品の回転率のためかもしれません。 - 趣味と物欲
*3:京都高島屋のペリカンBBインクのボトルもまだ古典ブルーブラックみたいです。 - 趣味と物欲
*4:東京銀座のペリカンBBインクのボトルもまだ古典ブルーブラックみたいです。 - 趣味と物欲
*5:万年筆インクの用語を統一しないと伝言ゲームで混乱するばかりなのでインク沼では揃えませんか。 - 趣味と物欲
*6:プラチナの新ボトルインクの表記はやっぱり間違いだったらしく修正されたそうです。 - 趣味と物欲
*7:LAMYのボトルのブルーブラックが染料に変わっていることを自分でも確認してみた - 趣味と物欲
*8:Storia Di Un Minuto→2ch万年筆インクスレ→FPNと読んで、モンブランのミッドナイトブルーも古典じゃなくなるとか。 - 趣味と物欲
*9:ペリカンのブルーブラックインクは米国では販売できない? - 趣味と物欲
*10:古典ブルーブラックインクが、米国の廃液処理規制の関係で減ったというのは、ペリカン ブルーブラックとTSCAの件の拡大解釈ではないのか。 - 趣味と物欲