趣味と物欲

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「INK 万年筆インクを楽しむ本」の古典インクに関する記事を読んで考えたこと

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「INK 万年筆インクを楽しむ本」の古典インクに関する記事を読んで考えたことをつらつらと書いてみたいと思います。
古典インク (古典ブルーブラック、没食子インク、iron gall ink) 以外についてはもっと詳しい方がいらっしゃるので、私は古典インクに特化した感想を述べさせていただきます。

7頁 万年筆インクの種類の古典インク

古典インクに関する説明が「染料インクに鉄分と酸性分を加えている」とざっくりしてしまったことに以前から懸念を表明していたのですが、今回は「タンニン酸か没食子酸と、鉄イオンを染料に加えたインク」と、かなり正確な表現に変更されていて、ありがたいと思いました、感謝!
細かいことを言うと、同ページの※3のところに「酸化するインクなので、スチールペン先を酸化させたりメッキを劣化させたりする場合がある」という文章があるのですが、化学系の方だと「酸化するので ~ 酸化させる」と書かれていると、酸化は還元とセットなので違和感を感じるはず、ここは素直に「酸化するので ~ 腐食させる」くらいの表現が良いと思います。

30頁 古典ブルーブラックの浪漫あふれる魅力

こちらのページも良く調べて書かれているという印象です。
ただ残念なのは、7頁では修正されていた表現が、31頁右下ではまた、「染料インクに鉄分と酸性分を加えて製造している」になってしまっていること。
タンニン酸と没食子酸を酸性分と表現していて、図でも酸成分と分類してしまっていることは非常に違和感があります。タンニン酸も没食子酸も名前に酸と付いていますが、酸性分と聞いて一般の方が思い浮かべる塩酸とか硫酸とか酢酸などの酸性とはまったく違います。
没食子酸はまだカルボキシル基 (-COOH) がありますが、タンニン酸はカルボキシル基が糖との結合に使われているのでフェノール性水酸基のみです*1タンニン酸のpKa約10ですよ。酸性分と言うなら、機能付与剤の中に含まれているpH調整剤の方が塩酸や硫酸が使われるので、よっぽど酸性です。
また、ブルーブラックの成分の機能付与剤の中に有機溶剤と界面活性剤が入っているのも若干の違和感を感じますが、各メーカーの古典インクの処方を知っているわけではないので、ここはこれ以上の言及を避けます。

32頁 プラチナ クラシックインクと34頁 カヴゼットインク

発売されたのは、プラチナ クラシックインクが2017年で、カヴゼッドインクが2015年なのは間違いないのですが、プラチナ クラシックインクの源流にあるのは、2009年に私が調製したインクです。あまりこういうことを言うのはスマートじゃないとは思うのですが、ちゃんと言っておかないと、文献としては趣味文の方が残ってしまうので、プラチナがKWZを真似した訳じゃないというのは主張しておきたいです。
このあたりの話は、古典ブルーブラックと万年筆と私 1 黎明篇 - 趣味と物欲 からの一連の記事に書いています。頑張って書いたので、ぜひご一読ください。

139頁 純正インクでも取扱注意の色もある

モンブラン自身の公式見解なので仕方がないのですが、モンブランのバーガンディレッドについて、「インクに含有されている鉄ガリウムが、キャップとペン先を変色させる恐れがあります」という文章は二重の意味で間違っています。
まず日本のモンブラン代理店で、おそらくFerro-gallic inkと書いてあったのを誤訳しています。gallicには元素のガリウム (Ga) の意味もありますが、ここでは没食子インク (iron gall ink、古典インク) と訳すべきです。
また私が調べた結果、モンブランのバーガンディレッドは古典インクではありません。バーガンディレッドによって万年筆に不具合が出るのが確かだとしても、それはバーガンディレッドが古典インクだからではありません。
pgary.hatenablog.com

*1:実際は加水分解してできた没食子酸が混じっていますが