本ブログでは、「タンニン酸あるいは没食子酸および鉄イオンを含む万年筆用インク」と定義している所謂古典ブルーブラック (古典インク) のことを海外では一般に「iron gall ink」と言う。
「gall」には、苦いもの、胆汁、植物の瘤などの意味があるが、この場合、植物の虫瘤から取れる苦い液、つまり「タンニン」全般のことを指していると考えられる。よって、iron gall inkの訳としては、「鉄タンニンインク」あるいは「タンニン鉄インク」あたりが妥当ではないかと思うのだが、「没食子インク*1」という訳をあてることが多いようだ。
「没食子*2」というのは、ブナ科の植物の若芽にインクタマバチが産卵してできた虫瘤のことで、iron gall inkを作るのに適したタンニンを多く含んでいる。一方日本では、「五倍子*3」というヌルデの葉にヌルデシロアブラムシが寄生した虫瘤から取れるタンニンを使っていた。
「没食子インク」を狭義の意味でとると、没食子から抽出したタンニンを用いたインクの意味となるが、iron gall inkの訳として広義の意味にとらえると、古典インクと同様に「タンニン酸あるいは没食子酸および鉄イオンを含む万年筆用インク」のことを指していると考えることもできる。
しかし訳としては、没食子の印象が強く、また、もう一つの重要な成分である鉄が消えてしまっているのも問題である。やはりここは「タンニン鉄インク*4」もしくは最近日本では一般に通じるようになった「古典インク」という用語を推したい*5。
ちなみに、「タンニン」ではなく「タンニン酸*6」というと、グルコースに没食子酸が結合した化合物のことになり、「没食子」ではなく「没食子酸*7」というとベンゼン環に水酸基が3つとカルボン酸が1つ付いた3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸のことになる。
パイロットの「インキと科學」では、タンニンとして、タンニン酸のみ含むインクを「タンニン酸鉄インキ」、没食子酸のみ含むインクを「没食子酸鉄インキ」、タンニン酸と没食子酸を配合したインクを「タンニン類鉄インキ」と区別して記載しています*8。
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