沢野ひとしさんと言えば、椎名誠さんのエッセイに登場するワニ眼の画伯で、怪しい探検隊の人というイメージが強いです。
好きな文章というより、万年筆を落としそうになった時にフラッシュバックするシーンですが、47頁の「ある日、欄干に寄りかかり、キャップをお尻のほうにさそうとした、その瞬間、無情にもキャップを残したまま本体は消えてしまった。」です。京都旅行の記念として、半年間かせいだお金をはたいて、丸善で購入したモンブランのマイスターシュテュック#84、ついに憧れのペンを手にされて、京都旅行を満喫されている最中の悲劇です。落ちていく万年筆を見ている時の喪失感を想像するだけでも、こころがキュッと縮む思いがします。
ペリカンのM600がペン先から床に落ちていくのを見たときに、同じようにこころがキュッとしました。
長崎のマツヤ万年筆病院で、何本も試し書きした中から選んだ1本で、自分にとっては最高の書き味でした。WAGNERの森さんに、直していただいたのですが、さすがに元の書き味までは戻りませんでした。
最高の書き味というのは、儚いものだと思います。
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