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手作りインクのタンニン酸、没食子酸、硫酸第一鉄量の再検討

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現在の自作ブルーブラックインクの主要成分 (タンニン酸、没食子酸、硫酸第一鉄) の量は、最初に調製してみたときに、万年筆評価の部屋:解説【インキと科學】 その16の記事中の米国での書写用インキの基準を参考にそのままw/v%で混ぜてみたら、問題無かったので継続してその割合を使っている。しかし、インキと科學の解説その16中でも、「渡部氏の研究によれば、タンニン類に対する硫酸第一鉄の割合は明らかに過大であるとのこと。」とあるので気になっていた。そこで、万年筆評価の部屋:解説【インキと科學】 その17に書かれている、タンニン酸、没食子酸、硫酸第一鉄の割合について検討してみた。

「タンニン酸【1.00】に対する硫酸第一鉄は【0.82】、没食子酸【1.00】に対する硫酸第一鉄は【1.48】」、と最新化学工業大系という本の中にあり、「タンニン酸1分子につき金属鉄は5原子まで結合する可能性があり、没食子酸1分子につき金属鉄は1原子を結合する」という結論から導きだされた物だそうである。【】内の数字が何を表わしているのかを考えてみると、自作インクの調製に使っている、没食子酸一水和物の分子量が188.14、硫酸第一鉄七水和物の分子量が278.02なので、この2つが1:1で結合すると考えると、重量では、没食子酸1に対して、硫酸第一鉄は1.48となる (188.14:278.02 = 1:1.48)。よって、【】の中の数字は混和するときの重量の割合を示すと考えられる。

問題はタンニン酸である、キリヤ: Q&A タンニンとは、にも書かれているように、タンニン酸は、日本薬局方では、「通例、五倍子または没食子から得たタンニンである」と規定されており、成分が一種類に定まっているわけではない。実際調製に使っているタンニン酸の瓶にも分子量は書かれていない。ただ、タンニン酸1.00に対する硫酸第一鉄は0.82、タンニン酸1分子につき金属鉄は5原子まで結合するという情報から、タンニン酸の分子量をMとすると、M:278.02×5 = 1:0.82として、タンニン酸の分子量 (M) をおおよそ1695と見積っているのではないかと考えられる。キリヤ: Q&A タンニンとは、に書かれているタンニン酸の構造から計算してみると、分子量はもっと小さくなるのだが、暁工房雑20というページに書かれている、五倍子タンニンの分子量が、1701.8で、このタンニンは、「現在では精製してタンニン酸の名で薬用に用いられている。」とのことなので、五倍子タンニンの分子量で計算してあるのだろうと考えられた。

ちなみに、第十五改正日本薬局方を確認してみると、タンニン酸は、「通例、五倍子又は没食子から得たタンニンである。」と書かれており、「その構造はNerenstein, Feistにつづき1912年 E. Fischer及びその門下が研究したが、現在明確な構造は定められていない。」とのことである。

上述した内容に従って、今の自作ブルーブラックの処方を検証してみると、100 mL中にタンニン酸が1.16 g入っているので、タンニン酸でキレート可能な硫酸第一鉄は0.9512 g、没食子酸が0.38 g入っているので、没食子酸でキレート可能な硫酸第一鉄は0.5624 g、二つ合わせると、1.5136 gで、実際入れている硫酸第一鉄の量1.5 gとちょうど同じであった。処方には、キレート剤として更にEDTAも加えているので、現在の処方で鉄の量は問題ないであろうと考えられる。