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博多天神界隈を本と文房具(万年筆とインク)と電子ガジェットを探して徘徊しています。

ブルーブラックという色名が先か、青染料を入れたのが先か?

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古典インク (没食子鉄インク) の処方の歴史を調べてみると、没食子の抽出液と鉄分を混ぜただけのインクでは筆記線が見え辛いので、態と酸化を進ませて黒くした「酸化インキ」というのが作られていました。
酸化させない「未酸化インキ」については、パイロット インキと科學 p211-217 には次のような内容が書かれています。(昔の文章なので、少し手を加えて分かりやすくしています)

世界初の未酸化インキの特許 (英国)は、1856年のレオンハルディ氏のもので、五倍子抽出液、茜染料、天然藍溶液、硫酸第一鉄、金属鉄を混ぜたものだった。後に茜染料 (アリザリン) を用いないようになる。

色素として、天然藍と茜染料を加えているので、紫色だったのではないかと思います。後に茜染料を加えなくなるので、そちらは所謂ブルーブラックの色になるのでしょう。
これが初の「未酸化インキ」の特許とされていますが、それ以前から色素を加えた「未酸化インキ」は使われていたようです。

1839年に英国のステフェンス氏が天然藍を利用した未酸化インキを作り、Stephens writing fluidとして発売している。タンニン、硫酸第一鉄溶液に天然藍とログウッドを混ぜたもの。

これも天然藍とログウッドが混ざっていますので、紫色だったのではないかと思われます。
また、「酸化インキ」も酸化してインキが黒く見えるようになっても、実際に筆記してみると筆記線は薄くて見え難いです。(染料の入っていないインクを自作して試してみた実体験です)
そのため「酸化インキ」の筆記線を見えやすくするために染料を加えるということは、それ以前からされていました。

1770年にアイスラー氏が、酸化インキの色を濃くする目的で天然藍を加える。

ちなみに、高校の化学の教科書にも世界初の合成染料として載っている赤紫色の「モーブ」の合成は1856年ですので、この当時色素と言えば、天然物から抽出されたものしか無かったと考えてよいでしょう。
それでは次に、没食子の抽出液と鉄分を混ぜたものの色自体が「ブルーブラック」と呼ばれていたのかということを考えてみます。
古典ブルーブラックで筆記したものを水で洗い、染料を洗い流したものの色が「タンニン酸または没食子酸と鉄が結合したもの」の色です。これを青黒いと感じる人もいるでしょうし、灰色がかった黒、緑がかった黒と感じる人もいるでしょう。
私は英語の歴史については素人なので、この方法で良いのか分かりませんが、試しに、Historical Thesaurus :: Home :: Welcomeという過去約1000年間に使われた英単語80万語を意味、時代ごとに分類したデータベースで、「blue-black」と検索してみました他に「blue black」や「blueblack」とも検索してみましたが、同じ結果でした。

You performed a quick search for blue-black
There are a total of 2 results.
Word results:
01.10.09.07.02|06 adj.
Pertaining to colour :: Black :: bluish-black blue-black (1853–)
01.10.09.07.02.03|02 n.
Colour :: Blackening agent :: pigment blue-black (1823 + 1857)

https://ht.ac.uk/category-selection/?qsearch=blue-black at 2018.7.9
この検索結果を見ると、blue blackというWordが使われだしたのは1853年や1857年ですので、色素を加えない酸化インキが使われ始めて大分経ち、没食子インクに天然藍の色素を加えることが広く行なわれるようになった後だったのではないかと思います。
没食子インクの歴史については、今後も継続的に調査していきたいと思います。