文具王の高畑さんも愛読していたというBTOOL (ビー・ツール・マガジン) を古本で見つけては、ちまちまと購入しています。
平成元年(1989年)11月17日発行のBTOOLマガジン 第2巻第12号 (通巻22号) p96-99に、野沢松男 氏が「文房具ピロートーク14 インクの歩み」という記事を書かれているのですが、これが素晴しい記事で、つけペンや万年筆のインクの歴史を見事にまとめており、化学的にひっかかる点もありませんでした。
エルバンが公証人用インクとして販売しているログウッドインクは、タンニン酸鉄インク (没食子インク) に比べると耐久性に劣ることや、
鉄ペンを腐食しないインクとして重宝がられた。しかし、その筆跡は耐久性に劣り、やがて退色して消滅してしまうことが分かったので、評価は一気にさがってしまった。
未酸化インク*1 の最初の記録は、1856年にドイツのレオンハルディが作ったアリザリンインクだが、使用された色素からレッドブラックだったこと、
アリザリンインクという名前は、当初、天然藍ではなく茜に含まれるアリザリンを使ったことからきている。
など新たな発見もありました。
野沢松男 氏について調べてみると、1983年に「現代筆記具読本」、1986年に「筆記具読本 改訂新版」、1994年に「文房具の歴史 文具発展概史」という本を文研社から出されています。
1986年の「筆記具読本 改訂新版」が手に入ったので読んでいますが、昔から万年筆の常識とされていたことで、最近、疑問を呈されていることが既に論じられていることに驚きます。
例えば、このブログでも再三記事にしている、ステンレスペンであれば古典インク (タンニン酸鉄インク、没食子インク) を使えるということも、この本のp36に、
最近は金属研究も進んで、金以外で耐酸性のある金属も開発されている。白ペンとかスチールペン *2とか言われる銀色をしたペンがそれで、これにはステンレス系の耐酸金属が使われている。そしてペン先としての性能も決して金ペンに劣るものではない。
と明記されていますし、
しゅん さんの論考で知られるようになった、ペン先の材質ではなく形状に着目した万年筆の硬軟の話も、p38-40にかけて「ペンの形状は書き味を暗示」という節で論じられており、ペン先の肉厚、ペン先の切り割りの長さ、切り割りの寄りについて触れられています。
しゅん さんの記事のように工学的な説明はありませんが、この節では、ペン先の材質には触れずに、形状と書き味について述べられています。
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今読んでも非常に納得感のあることが多数書かれているのですが、この本の内容があまり知られていないようなのが不思議でなりません。