趣味と物欲

博多天神界隈を本と文房具(万年筆とインク)と電子ガジェットを探して徘徊しています。

万年筆インクを3分類するのは、その性質や使用上の注意点が大きく異なるから。

ペリカンのブルーブラックインクが、その成分にタンニン*1と鉄を含む所謂、古典インク*2と呼ばれるもののままかということを、態々確認しているのかというと、鉄を含まない一般的に染料インクと呼ばれるものと、所謂、古典インクでは、使用上の注意点が大きく異なるからです。

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だから、「古典インクもその成分はすべて溶けているのだから染料インクであって、ペリカンが4001ブルーブラックを染料インクだと説明しているのは間違いではない」というようなことを言われても、困惑しかありません。ユーザーに対して、メーカーや文具店が、古典インクを染料インクだと説明するのは、果たして誠実な対応だと言えるのでしょうか。
文具店の方が「ペリカンのブルーブラックは染料インクです。」と説明していたことに対して、「ペリカン ジャパンから、そう説明を受けたので、所謂古典インクとは知りませんでした。」と言うのと、「古典インクも染料インクの一種だから、所謂古典インクであることは知っていたけど、染料インクだと説明していました。」と言うのでは、どちらがマシでしょうか。

ブルーブラック以外の万年筆用インク ブルーブラックインク 顔料インク*3

使用上の注意点が大きく異なる3種のインクの分類は、ブルーブラックインクと言えば、タンニンと鉄を含むインクのことであった時代には、迷うことはありませんでした。ブルーブラックと、それ以外の色の万年筆用インクを区別して、使い分け、使用上の注意をすれば良かったのです。
顔料インクは万年筆用のインクではありませんでしたが、今と同じで、知らずに入れて詰まらせたり、耐水性が必要で無理矢理入れて使ったりした人はいたようですし、漱石も愛用したイカ墨のセピアインクは顔料インクの一種だと考えられます。

染料インク 混合型インク
パーマネントインク
タンニン酸鉄インク
伝統的なブルーブラック
古典的ブルーブラック
iron gall ink
没食子インク
顔料インク

染料で色だけ似せたブルーブラックインクへ切り替えるメーカーが増えて来たことで、染料のブルーブラックインクと、タンニンと鉄を含む旧来のブルーブラックインクを区別する必要が出てきました。染料のブルーブラックと旧来のブルーブラックでは、耐水性や耐候性などの性質や、使用上の注意が異なりますから、区別するのは当然ですね。
当時の雑誌や本では、染料と顔料の性質を併せ持っているからと言うことで、「混合型インク*4という表現しているものが見受けられます。また染料に比べて耐久性に優れるということで、「パーマネントインク」という言い方もあり、万年筆愛好歴の長い方に好まれる呼び方という印象があります。
セーラーの石丸さんは、趣味の文具箱 vol.7のインタビューの中で、当社でも扱っていた「タンニン酸鉄インク」という表現で、インクの開発者として化学的に表現されています。
他には、「昔ながらの」「伝統的な」「古典的」「正当派」「本物の」「本当の」など、染料インクとは違うことを強調する様々な表現が使われました。
英語には、タンニンと鉄を含むインクを表すのに、「iron gall ink」という便利な用語があり、日本語では「没食子インク」と訳されます。没食子インクを長く使ってきた歴史のある欧米では、「iron gall ink」「Eisengallustinte」「encre de galle de fer」等のイメージが共通認識として共有されているため、イメージにブレが無いのだと思います。
没食子インク」という用語の使用についても考慮してみたことがありますが、日本語の「没食子インク」という用語は、R&Kのサリックスとスカビオサや、虫瘤の没食子を砕き鉄を混ぜて自作したインクのイメージが強く、古典インクを言い換えるための共通認識足り得ないように思います。

pgary.hatenablog.com

染料インク 古典インク
クラシックインク
iron gall (IG) ink
没食子インク
顔料インク
パーマネントインク

万年筆用の顔料インクが発売され、パーマネントインクという称号に、より相応しいのは顔料インクなのでは、と考えていたところ、モンブランがiron gall inkをやめ、顔料インクを「パーマネントインク」と銘打って発売しました。これにより、タンニンと鉄を含むインクを示す用語として、パーマネントインクは使えなくなったと言ってもよいでしょう。
ブルーブラック以外の色のiron gall inkとして、R&Kのスカビオサがありましたが、プラチナのクラシックインクやKWZのIGインクなど、色数が一気に増えました。非公式に使われていた「古典ブルーブラック」という用語が、色の増加に伴い、「古典インク」となり商品名として、「クラシックインク」や「IG ink」が使われるようになりました。
ちなみに「古典ブルーブラック」は、万年筆愛好家の間で、染料のブルーブラックと区別するために使われ出した用語だと思いますが、文字として残っている一番古い記録は、調べた限りでは、2003/04/17 00:28の2ちゃんねる(5ちゃんねる)の書き込みでした。
pgary.hatenablog.com
要するに、欧米の「iron gall ink」という概念(共通認識)に相当する日本語は定まっていませんから、これから変わっていく可能性は大いにあります。最近は訳語を作らずに、英語をそのままカタカナにしてしまうことも多いですが、やはり適切な訳語が共通認識され、概念が共有されるのは大事なことかと思います。

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*1:ここではタンニン酸や没食子酸などをまとめてタンニンと表記しています。

*2:古典インクという呼び方については色々な意見がありますが、ここでは便宜上、古典インクという用語を使います。

*3:製図用、証券用など万年筆用ではない

*4:以前は混合型インクという用語を奇妙だと思っていたのですが、意外と的を射た表現なのかもと思うようになりました。 古典インク(没食子インク)は「染料⊂古典」じゃなくて「染料∩顔料」じゃないか説 - 趣味と物欲

趣味の文具箱掲載の万年筆インク数の変遷アップデート Vol.59まで

ヘリテージに移って最初の「趣味の文具箱」は「インク愛が止まらない」と題したインク特集でした。2020年9月7日の55号から1年振りのインク特集です。
55号の万年筆インクカタログが965色で、59号が1017色ですから、1年間で52色増、内訳はペンブランドのインクが、369 → 374の5色増に対して、インクブランドのインクが596 → 643の47色増となっています。
ただ、TONO&LIMS、フェリスホイール・プレス、ヴァン ディエメンス、SKB、それからショップブランドとして出されているインクなどは、本誌には掲載されていますが、インクカタログには載っていませんので、実際の掲載数は1017をかなり超えています。
インクカタログに載せるインクが厳選されたというだけで、本誌の方にはVintaインクやIWIインク、TAGインクなども掲載されています。また発売されたばかりの、寺西化学のギターインキも掲載されていないので、もっと増えます。

号数 趣味文発行日 インク掲載数 備考
9 2008/1/30 208
14 2009/8/10 207 高橋良香 氏によるLab測定開始
21 2011/12/20 14号に追加
25 2013/3/20 21号に14色追加
28 2013/12/20 25号に58色追加
32 2014/12/20 431 28号に33色追加、6色削除
36 2015/12/10 470
40 2016/12/10 539 36号に56色追加
44 2017/12/20 602 40号に34色追加、デルタを削除
47 2018/9/20 747 44号に135色追加、2色削除
51 2019/9/5 1517 ペン&インクブランド804色、ショップオリジナル713色
INK 2020/5/8 2000 万年筆インクを楽しむ本
55 2020/9/7 965 ペンブランド369色、インクブランド596色
59 2021/9/6 1017 ペンブランド374色、インクブランド643色

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今回「とのりむ」インクがかなりの種類紹介されていましたが、実際には北から南まで、文具店のオリジナルインクの多くがTONO&LIMS製なので、日本地図に配置して、どれくらいあるのか見てみたいと思いました。

その他の記事では、古山浩一さんの記事がプラチナ#3776の話で、初代モデルからの変遷を紹介されていました。プラチナによる現在の理想の万年筆、究極の万年筆待望論には深く同意するとともに、期待してしまいます。

プラチナの万年筆用カートリッジの口をネジザウルスで抜くとき、新品と使用済みに金属ボールを嵌めた時の違いは?

前回のプラチナの万年筆用インクカートリッジの口をネジザウルスで引っこ抜く話を書いた後で、使用済みカートリッジの口の部分に、金属ボールを嵌めてから引き抜けば、ダメージが少ないんじゃないか、ということを思いつきました。
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その結果が下の動画ですが、抜こうと力を入れている途中で金属ボールがカートリッジの中に入り込んでしまいます。

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何度か繰り返してみましたが、やはり途中でツルっと中に入り込んでしまいます。

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それではと、新品のカートリッジで試してみると、こちらは同じように力を加えても貫入せずに抜けます。こちらも繰り返してみましたが、やはり新品であれば、ボールが貫入せずに抜けます。

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カートリッジの使用後は、口の部分が拡がっており、これが再利用する時の漏れの原因の一つだと考えられます。
漏れを解決するには、未組立の空カートリッジが入手できないと難しそうです。それがあれば自作インク含め、色々なインクのカートリッジを作製できそうですが、空カートリッジだけ流通させるのは難しいのでしょうね。
からっぽカートリッジ セット (ECF160-699) – 呉竹公式オンラインショップ
呉竹のからっぽカートリッジセットもスポイト付きとはいえ、5本で385円で、インク入りカートリッジが3本で220円ですから、1本あたりだと、およそ同じ価格です。
からっぽカートリッジセットは、どれくらい売れているのでしょうか。

プラチナの空カートリッジのニーズがあるのか知りたいので、アンケートを作ってみました。良かったら教えてください。